京都大学経済学部同窓会近畿支部 Kyoto University department-of-economics class reunion Kinki branch

卒業生と学生の広場
竹澤祐丈  ゼミ
先生からの自己紹介
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わたしは,経済学という学問を生み出した17・18世紀の英国社会やアダム・スミスなどの思想家に対する興味から,大学での勉強を始めました。そこで巡り会ったのが,社会思想史という魅力的な分野でした。社会思想史は,人間とはどのような存在なのか,個人と社会はどのように関係を持つべきか,自己利益の追求と集団の維持の両立は可能かなどについて,特定の時代や国(私の場合,近世英国,最近はオランダも)を例に考察する学際的学問です。そのため,経済学だけでなく,哲学,心理学,社会学,歴史学,政治学などの知見を総動員する必要があります。
つまり,このような「雑学的」要素に魅力を感じたのです。 大学院からは,近世英国史研究の本場へ長期留学しました。あちらでの生活は,研究の刺激だけでなく,英国人の思考様式や生き方から学ぶ機会をも与えてくれました。
またそれは,英国(人)との対照によって,わたしたち自身の社会の特徴や問題をより明確に把握する機会でもありました。他者の事例から充分に学びつつもその単なる模倣ではなく,これからの社会や人間のあり方を考える姿勢は,分野を問わずに,いまでもわたしたちにとって必要なことのように思います。
教員の仕事は,みなさん自身が,他者から学びながら自分自身を形成するお手伝いだと思っていますので,様々な機会にお話できることを楽しみにしています。 趣味は,自然観察,人間観察,料理,水泳(最近はご無沙汰)です。
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トピックス
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竹澤ゼミの表も裏も、そして過去も現在も知り尽くしている(はず)の、学部ゼミ2期生で現在大学院博士後期課程のKが、竹澤ゼミをご紹介いたします。

1.ゼミ概要
竹澤ゼミでは、主に近代イギリスの思想家の古典や、それに関わるテーマの著作を、ゼミ生みんなで議論しながら読み進めていきます。
二回生のゼミでは、内容把握の方法や本で議論されていることへの分析視点の当て方、どのような問いを立てるのが妥当かといった部分に重点が置かれます。
そのうえで、三・四回生のゼミで、古典を読み進めていくことになります。これまでは、アダム・スミス『道徳感情論』やデヴィッド・ヒューム『市民の国について』、バーナード・マンデヴィル『蜂の寓話』などを取り上げました。
毎回、一名がレジュメを作成して内容や疑問点を報告し、それにもとづいてみんなで議論します。竹澤先生の「報告ありがとう。じゃあ、どこからでもどうぞ」という合図を皮切りに、司会者選びが始まります。しばしの間、覚束ない視線がやり取りされた後、「では、僕(私)が…」と立候補で(ゼミ内で何か目に見えない力学が働いているのかもしれませんが)司会者が決まります。
まずはレジュメのまとめ方について吟味し、報告者以外のメンバーも疑問点を出し合った後、いよいよ疑問点の検討が始まります。ゼミ生どうし仲が良くなるまでは、少々遠慮がちに発言していますが、打ち解けてくるとお互いの意見に対する鋭い突っ込みが多くなってきて、活発な議論に発展します。それをいつも竹澤先生は温厚な笑顔で聞いてくださっていますが、実はゼミ生はその笑顔(にんげんかんさつ)が一番怖かったりもします。
先生は、議論が横道に逸れたり煮詰まったりしたときに、軌道修正や別視点の提示をしてくださいますが、それが的確で説得力のあるものなので、ゼミ生たちは真剣に耳を傾けます。筆者が研究会で出会う女子院生のほぼ100%が「竹澤先生ステキ」と言っていますが、「モテ」の要素はきっとこういう優しさとか知性とかそういうところにあるのでしょう。
ともあれ、こうして、ゼミ生たちは少しずつ古典への理解を深めていくのです。
古典は一人でも読むことは十分に可能ですし、最終的には古典を自力で読解し、自分なりの解釈や主張を加えて論文にまとめる力をつけることが、ゼミの目標です。しかし、ゼミ生それぞれが疑問を持ったところや理解しにくい箇所を持ちより、その問題を共有して議論をしていく過程での、いわば「他者理解」とそれに伴う「自己理解」にこそ、ゼミという場においてみんなで古典を読むことのメリットがあるように思います。
古典を読んでそれぞれが持つ感想や疑問点は多岐にわたります。それらをゼミで検討していく過程で、自分が無意識のうちに前提としていた考え方が炙り出されたり、自分が考えもつかなかったような発想に出合ったりします。
それを理解したうえで、反省的に自分自身を見つめ直す経験ができるのも、大学のゼミの、とりわけ、竹澤ゼミの魅力なのではないかと思います。(それは、人によっては、痛みを伴う経験であるかもしれませんが。)
このように、「古典と自分」「古典と他者」「他者と自分」の三幅対の中で、(思想家を含めた)他者を学び、他者に学びながら、竹澤先生のサポートのもとに自分というものを問い直し形成していく経験を提供してくれる場が、竹澤ゼミであるように思うのです。

2.ゼミ生の研究
テーマ竹澤ゼミには、何らかの興味や問題関心を持って、それに向き合ってみようという学生が多いように思います。例えば、個人と社会・集団との関係や、そのそれぞれの利益の一致・不一致をどのように捉えたらよいのか、あるいは、自由とは何か、そしてそれを可能にする条件とは何か、などといった問題です。これらは当然、「白か黒か」で答えが出るものではありません。古典やゼミの仲間との対話によって、白と黒の間にあるグラデーションを認識し、自分なりの視点から最適だと思う「色」を探し出して表現することが、社会思想史のゼミの醍醐味(むずかしさ)でもあります。 そのひとりひとりの探求の成果は、ゼミ論文、そして卒業論文となって現れています。それらは、『竹澤ゼミ論文集』として毎年まとめられています。以下は、近年の学部ゼミ生のゼミ論文あるいは卒業論文のタイトルの一例です。
・「マルサス『人口論』の世界―『人口論』からみたフェアトレード―」・「マキャヴェッリとマキャヴェリズム―安定した統治という目的―」・「ホッブズ『リヴァイアサン』における宗教と国家の関係の考察」・「スピノザ『神学・政治論』における規範と法則」・「J.S.ミル『自由論』における諸限界と可能性」・「『コルシカ憲法草案』から考察されるルソーにおける観念」・「トクヴィルの「利益の正しい理解の説」と個人主体」・「ロールズ『正義論』における理論と原初状態の妥当性」
このように、ゼミ生は自分の興味・関心に合わせて、必ずしも「近代」「イギリス」に限定されることなく、国・時代ともに様々な思想家・哲学者を選んで議論しています。 最終提出に至るまでに、アカデミック・ライティングに関する指導とともに、ゼミでの検討会が行われます。検討会では、より良い論文にするための意見交換がなされますが、ゼミ生どうしが具体的にどのようなことに知的関心を持っているのか、それをどのように考えているのかについて知る良い機会となっています。
3.これまでのゼミ生の傾向
竹澤ゼミ黎明期は、竹澤先生をはじめ、ほとんどが関東出身者で構成されていました。京都大学は関西出身者が比較的多いと思いますが、わざわざ関西の大学を選んだマイノリティたちは、経済学部の中でもマイノリティ(ひねくれもの)である社会思想史のゼミを選んだということでしょうか。その後、一時期関西出身者の割合が増えましたが、近年再び関東出身者の割合が高くなってきており、勢いを盛り返しつつあります。筆者の個人的な見解ですが、関東圏と関西圏の文化のギャップを議論する際は、関東出身者が多いほうがおもしろいものになるような気がします。
4.イベント
夏休みのイベントとして、合宿が開催されます。以前は竹澤ゼミ単独で行っていました。2004年には、滋賀県の余呉で合宿を行いました。
その二日目、竹澤先生は大学関係の急用のため一時的に大学に戻らねばならず、「夕方には戻るから、しっかり議論していてね」と言い残して一度京都にお戻りになりました。当然のことのように(?)私たちは宿泊先を抜け出して敦賀まで遊びに出かけ、夕方急いで舞い戻って、ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』をずっと議論していたかのようなふりをしていました。しかし、これまた当然ですが、しっかりバレてすっかり油を絞られたのは、今となってはいい思い出です。
近年の合宿は、高知大学人文学部の森直人ゼミ(社会思想史)、神戸大学国際文化学部の桜井徹ゼミ(法哲学)と合同で行っています。専攻は同じでも関心が異なっていたり、専攻自体が少し異なっていたりするために、これまで、山崎豊子『二つの祖国』『大地の子』といった小説を議論のための題材としました。
主にアイデンティティの問題、特に、その構造はどうなっているのか、そしてそれは時間や経験とともに変化しうるものなのかといった論点で議論が展開しました。こうした中でも、大学ごとの「色」が出たり、そうはいってもやはり個人のこれまでの人生観に還元されたりする議論が出たりして、「他者理解」という点で、普段のゼミとは一味違う新鮮な経験となっています。
また、ゼミ・コンパは、ゼミでの人間関係を円滑にするために、毎学期始めと終わりに開催されています。さらに、準公式行事として、クリスマスに寂しい(シングルの)ゼミ生たちが集う竹澤先生邸でのホーム・パーティーがあるとかないとか…。
5.卒業生の進路
竹澤ゼミ生は、大学院への進学、サービス業、公共部門を志す人が多く、実際にそういう結果になっています。経済学部の他のゼミでは、金融関係に進む人が多いように思いますので、進路に関しても他のゼミとは異なる特徴を有していると言えると思います。人と人との関係形成や個人と社会との関係の在り方に興味・関心を持っているということが、進路選択にも影響しているのかもしれません。
6.教員からひと言
私自身は、商品交換というある種の異文化理解が成立するための社会的な条件やそれに携わる人々の資質はどのようなものかに興味を持っています。その問いを考えるために、17世紀ごろの西ヨーロッパを中心にしつつも、古代から現代まで、キリスト教圏から仏教圏やイスラム圏の社会習慣など幅広い素材を検討しています。
ゼミでの議論は近年大変活発で、参加者の幅広い問題関心と成長の著しさを頼もしく思っています。またゼミの正式メンバーだけでなく、その「準構成員」とも呼ぶべき自主的な読書会の参加者との交流も私自身の貴重な財産になっています。

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